タイトル「執着」
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挿絵【事例】

とある女は、彼氏と別れて二カ月経った今も、その彼に何度もメールや電話をする。彼に「もうやめてくれ」と言われても、である。

彼女は「そっちが告白してきたくせに」とか「裏切ったのはそっちなのに何でそんなに偉そうなの?」とか「勝手に乗り換えたんだから、私にかけた迷惑からすれば、少しは我慢すべき」などと言う。そう言われると彼も黙ってしまうのだが、彼からすれば、いったい何が目的なのかよく分からないのであった。
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play_arrow 彼女は彼のことで頭がいっぱいなのだと言える play_arrow 彼女は本当は彼のことがどうでもよく思えてきていると言える play_arrow 彼女は素直に好きと言いたいが照れているのだと言える

【校長の解説】

挿絵こういうことは外交問題や友人関係でもよくあることだろう。やたら憎しみをぶつけてくる人がいたりして、ぶつけられた側としては「そんなに嫌いなら自分のことなんか気にしないでくれたらいいのに。こっちもほっとくから…」と思うのである。

問題文の彼もそう思ったのではないだろうか。いったい何が目的なのか、と。そんなに自分のことが嫌いなら関わらなきゃいいのに、と思うのではないだろうか。しかし彼女としてはそうはいかないのである。

彼女は別れ際に彼に傷つけられた。例えばいじめられたとか、例えば暴力被害に遭ったとか、例えば恋愛において圧倒的な力量差がある中で男に遊ばれたとか、何か手の打ちようがない(と感じられるほどの)強大な力で傷つけられたとき、我々は心に深く傷を負うだけでなく、その対象のことがすごく気になってしまうという性質がある。単にインパクトのある出来事が忘れられないというだけではなく、自分の存在を小さく扱われたショックにより、その不公平さをどうしても解消したいという気持ちになる。

自分の存在が小さく扱われた、というとき、例えば自分が成長したりして社会で認められて、相対的に自分の存在が大きく感じられ、相手のことなどどうでもよくなって回復することもある。だが問題文のように、「自分が傷つけられて心にあなたが刻まれたように、何が何でもあなたに自分のことを刻みたい」と願い、相手のことを責めたり苦しめようとする、またはプレッシャーをかけたりいろいろなことをして自分の存在を大きくしようとする人もいる。「嫌われてもいいから相手に何かを刻んでやる」と思う人もいるし、「嫌われたくはないし愛されたいが、存在が小さくなるぐらいなら、傷つけたい」という人もいる。不倫で遊ばれて、相手の家庭を壊しにかかる人も少なくない。簡単に言えば「コケにされたままではいられない」ということである。

執着というのは、自分の存在が相対的に小さくなっていることへの抵抗、心のこだわり、である。いや、例えば自分が好きな芸能人から見れば、自分なんかちっぽけだ、というのはたいがいの場合受け入れられるだろう。しかし「自分が愛される(自分の存在が大きくなる)ことを期待して自分の多くを注いだ相手」から小さく見られることは、我慢ならないのである。そして恨みでも痛みでも思い出への切なさでも、なんでもいいから心から消えてほしくないとすら思う。苦しいから心から消えてほしいし忘れたい気もするけれども、この恨みや悲しみや切なさがその人との最後のつながりだから、刻んでいたいとすら思うのである。

執着心は、相手と自分の関係だけでなく、他のことにも左右される。例えば自分の人生がうまく回り始めると元彼への執着が消えたりするし、逆に執着が消えないとしたら「この執着がなくなったら私には何もなくなる」という人が執着しやすい。だから執着の一番の解消法は、やはり自分の幸せを追い求めることであり、自分の人生を生きて、執着している相手とは無関係の希望を持つことである(なかなかそうもいかない問題もあるが)。

執着とは、自分の存在が小さくなっていることへの抵抗、自分の存在が小さくなって傷ついたことへのこだわり、である。今日は執着の中身について覚えておいてほしい。