タイトル「混沌とした心」
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挿絵【事例】

とある女は、最近二年付き合った彼氏と別れた。このところ険悪な雰囲気があり、彼氏に女の影もあって、会っていても優しさがなく、とうとう振られてしまったのである。そして半月後には、彼に新しい彼女ができていた。

彼女にとっては生まれて初めてと言えるぐらい大好きになれた彼氏だったが、彼に新しい人ができたのは相当にショックだった。実は前から自分だけが彼を好きで、彼はそれに合わせていただけなのか、と思うのである。なんだか二年間の付き合いが嘘のように思えてくるし、人間不信にもなるのであった。
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play_arrow 彼氏の気持ちの全てが嘘だったとは言えない play_arrow 彼女は彼氏の本性をやっと知ることができたと言える play_arrow 彼女は彼氏に長いこと騙されていたと言える

【校長の解説】

挿絵あんなに大好きで、彼も凄く好きでいてくれた気がするのに、なぜ他の女になびくことができるのか、私だけが盛り上がっていたのか、と混乱してしまっている彼女である。そのように思ってしまうことは仕方がないことだが、淡々とした事実だけ述べるならば、おそらく彼も彼女のことは大好きだったのである。人はなかなか演技でそこまでできないし、ましてや二年間も騙すために費やせないし、「共鳴している感じ」というのは偽りづらいものである。彼女がそんなに夢中になっていたのなら、彼もきっとそうだったろう。

それでも、時間とともに気持ちが落ち着いていったり、最近の険悪さや、他に好きな人ができたこともあって、振られてしまった。だからといって彼が彼女を好きだったことが嘘になるわけではない(そのように認めることは苦しいことだし、このケースでそれを急いで認める必要もないのだが)。

例えば突然やる気をなくして頑張れなくなった人がいたとして、その人が今まで努力家だったとしたら、「怠惰な性格が露呈した。とうとう本性が出た」ということにはならないだろう。努力家にも、やっていられなくなるときもある。デキる人にも、何をやってもダメなときがある。一つの姿を見せたからといって、今までの姿が嘘になるわけではない。

人の性格だけでなく、心理も、混沌としている。いつも言うことだが、誰かを嫌いになったとき、好きという気持ちがなくなるとは限らない。彼氏に優しくされて嬉しいというとき、過去に彼から受けた暴力の痛みを忘れるとは限らない。逆に彼氏から暴力を受けて別れたいと思ったとき、彼氏の笑顔や優しさを忘れるとも限らない。暴力を受けている人が「でも彼氏には優しいところもあって」と言い出したら、周囲の人は「騙されている。それこそが罠だ。別れろ」と思うかもしれないが、そういう混沌とした心こそが真実なのである。だから人の複雑な心理を否定せずに、混沌は混沌として受け止めて「そうかもしれないけど、それでも逃げたほうがいい」と言ってあげたほうが、よっぽどその人の心に合うことだろう。

心の中は、世界のように混沌としていて、秩序立っていない。浅い理解では「暑ければ寒くはない」ということになるが、実際は火山があって氷河もあるし、それが世界である。心の中にも、矛盾とも思えるような心理が混在していて、実際には矛盾していない。ただ人の理解が浅くて、というか心の中が人智を超えていて、矛盾であるかのように思えるだけである。だから少しでも妥当な理解をしようと思ったら、無理に論理性を持たず、ありのまま、世界に火山や氷河があるかのごとく心を捉えたほうが良い。

といっても「いろいろある」とだけ捉えていたら全ての理解を放棄しているのと同じだから、今はこういう顔が表に出ているだとか、心の割合としてはこれが大きいだとか、小さい割合だけどこのことが心のトゲになっているだとか、そういう風に捉えてみてはと思う。